秋元実治(青山学院大学教授)
英語を習い始めて、日本語にない文法現象として気が付くことは、英語に見られる単数・複数の区別であろう。複数形は単数形に複数接尾辞 -sを付けることにより作られる。ところが、この -sの持つ意味を必ずしもはっきり把握できないことがあるし、それどころか矛盾するような例に多く遭遇することがある: a cross-roads, an alms, a woods。それでは -sの意味をも含めてどのように説明すべきであろうか。以下において、このような一見分かりづらい -sの例を基に、-sの持つ共通の意味を考えてみよう。
まず病名に-sの付くものが多い: measles以外にshingles(帯状疱疹)、mumps(おたふく風邪)など。-ingの付く名詞にも -sを付けることが多い: sweepings(ごみ)、findings(発見物)、writings(著作集)、surroundings(環境)など。また変わったところでは、makings(資質)などがある。さらに、beginnings(起源)、beginning(始まり)の区別も注意を要する。
挨拶・お礼を言う言い方は複数形で表される: greetings, thanks, congratulations, regards, remembrancesなど。イディオム的表現としては、make amends (for)(償いをする)、I am friends with him, for starters(まず第一に)などで使われる名詞がある。さらに、heights(高地)、depths(深み、奥まった所)などの -sはどうであろうか。
また名前に関しては、名は-sを付けないが、姓には -sを付ける: John ? Johns , Adam ? Adams など。
以上の例について、-sの共通概念はすべて「二つ以上」というものである。すなわち、病気に関しては、病人と移される人、sweepings(掃除した結果、集まったごみ)、makings(資質を構成するものが幾つかあることをうかがわせる)。挨拶語に関しては、それを発する人と相手がいる。Amendsは分かりにくいが、償う相手を思い起こさせる。For startersは最初に述べることに対して、二番目を予想させる。Heights, depthsは高い所と低い所、深い所と浅い所の対比を感じさせるし、姓に-sが付くのは、家族は何世代にわたっていることのためであると考えられる。なお、a cross-roadsのように一見すると矛盾のように思われるが、道路が交差していれば当然二つ以上の道路を思い浮かべるが、不定冠詞のaはそのような道路を一般化した言い方で、いわば -sの概念を越えた使い方であるといえよう。
以上のように考えてみると、-sには顕在化されようが、されまいが、必ず「二つ以上」の意味が存在していることが分かる。またこの概念が、headquartersにおけるよう個々の部分(普通「本部」には司令室+いくつかの部屋から成っていること)を強調する意味をも付随していることにも注意したい。
2008年10月10日 掲載