英語とドイツ語とフランス語

下宮忠雄(学習院大学名誉教授)

 中学時代から英語が好きで、英語の先生のお宅に伺ったとき、本棚にあった『フランス語四週間』(大学書林)を借りた。その後、同じ先生から『ラテン語入門』(呉茂一著)も借り、一生懸命ノートにメモした。当時は、入門書でも、容易には買えない高価なものだった。別の日、先生、掃除が終わりました、と教員室に報告に行くと、理科の先生の机に『高校生のドイツ語』という本があった。先生、二三日貸してくださいませんか。いいよ。家に帰って、中を見ると、英語に似た単語がたくさんあった。翌日、本屋で藤原誠次郎著『初年生のドイツ語』(1948、葛城書房)を買った。奥付を見ると、訂正改訂版第18版、定価180円とあり、父の月給の1割ぐらいの値段だったように思う。文字は今とは異なるヒゲ文字だったが、発音がカタカナで書いてあり、独習者にも分かりやすく書かれていた。高校生になって、藤原誠次郎著『基礎仏蘭西語の研究』(葛城書房、1951)という本も見つけて、勉強した。同じ著者であることに驚いた。これも、とても分かりやすく書かれていた。高校時代に前島儀一郎著『英独比較文法』(大学書林、1952)と高津春繁著『比較言語学』(岩波全書、1950)を買ったとき、これぞわが道と思った。同じころ古本で購入した乾輝雄著『英独仏露四国語対照文法』(冨山房、再版1942)はむさぼるように読んだ。

 大人になってから、大学で英語の教師を8年、ドイツ語の教師を30年して、2005年、定年退職した。毎年4月、新入生に「英語以外にもう一つ外国語を勉強すると、世界が二倍に広くなる」と言ったものだった。あと、アンデルセン、グリム、ハイジ、フランダースの犬、星の王子さま、なども愛読し、授業でたくさん扱った。ゴチャゴチャ書きましたが、要点は、人生においては、最初の一冊の本がとても大切だということです。ラテン語のことわざに「書物のない部屋は魂のない身体だ」があり、1956年、当時、東ドイツの文部大臣ヨハネス・ベッヒャーは「今日の書物が明日の国民を作る」と言っていました。

 表題にもどるが、世界の言語の数は3000、最近は6000と言われている。このうち、2800言語はまだ誰にも研究されていないそうだ(東ドイツの言語学者、フンボルト大学教授ゲオルグ・フリードリッヒ・マイヤーによる)。

2007年3月9日 掲載