私の英語の勉強と英和辞典

八木克正(関西学院大学教授)

 私が初めて使った英和辞典は、旺文社の中学生向きのものでした。中学校に入った頃に雑誌の懸賞であたったものでしたが、名前が思い出せません。中学生の間はこの英和辞典に首っ引きで、教科書の単語を単語帳に写し取り、発音記号と品詞、意味(日本語訳)を書き込みました。教科書以外にも物語を読んで、同じように単語帳を作っていました。3年生の時は、ほとんど欠かさずに「百万人の英語」をラジオで聴きました。鬼頭イツ子先生、半田一郎先生、James Harris先生、五十嵐新次郎先生といったお名前は今でも頭の中に残っています。この番組で出てきた単語も辞書で確かめて、単語帳を作りました。このように、英語大好き生徒だったのです。

 高校になると、クラブ活動(機械体操)と苦手の数学の勉強に追われて、あまり英語の勉強はしませんでした。大学ではまた英語大好きの生活になって、1年生の時からMainichi Daily Newsを読みはじめました。とっかかりはEditorialで、だんだんといろいろな記事に広がっていきました。いろんな英米小説もたくさん読みました。その勉強のために、『コンサイス』『ポケット』『岩波英和中辞典』『簡約英和辞典』の辞書を引いたり、引いたページを全部ついでに読むというようなことをしていました。片っぱしから英和辞典をバラバラになるほど使いました。一方で、当時唯一の英語テレビ番組だった「弁護士プレストン」(英語のタイトルは思い出せません)を観たり、VOA放送、FEN放送をラジオで聴いていました。

 英和辞典にいろいろな間違いや古い英語がたくさんまぎれこんでいることが分かってきたのは、もう30歳半ばだったでしょうか。高等学校で学んだ受験英語のWoman as I am, I can be of some help to you. 、 I had my wife die.などというような英語は、本当の英語でないことに気づくようになりました。それまで随分とお世話になった英和辞典の問題点を洗い出し始めたのはもう30年も前になります。今の英和辞典でもその多くは、たくさんの誤りや古い記述、誤解を招くような説明がたくさんあるのです。

 英和辞典の中身と実際の英語とがなんだか合わないな、と思うようになったのは、英和辞典大好きだったことと、一方で常に生きた英語も学んだからきたからだと思います。英和辞典が、可能な限り現実の英語の姿を映したものにしたいというのが今の仕事の中心です。

2007年6月8日 掲載