大石 強(新潟大学教授)
言葉の仕組みの解明には、色々な側面から実証していくことが必要ですが、私が興味を持っていることは、新しい語がどのように作られるのかということです。これに関わる課題の一つは、新語の組み立て方は文と比べて、どのようになっているのかということです。
例えば、次のような文の組み立て方と複合語の組み立て方を比べてみましょう。
(1) a. The dog is sniffing bombs.(その犬は爆弾をかぎ分けているのです。)
b. a bomb–sniffing dog(爆弾探知犬)
(2) a. A number of crimes are related to drugs.(多くの犯罪が麻薬と結びついている。)
b. drug–related crimes(麻薬関連の犯罪)
(1a), (2a)の文の組み立てを太字の動詞を中心に見てみると、主語を必要としているということの他に、動詞の意味に必要な要素を動詞の後ろにとっています。今度は、(1b), (2b)の最後に位置する名詞を修飾している複合形容詞の組み立て方を見てみます。(1a), (2a)と比べながら見てみると、動詞と関連した太字の語の前に、文では動詞の後ろにあった語が来ています。また、文の主語に相当するものが、複合形容詞全体に修飾される語となっています。複合語の方では、複数形が無くなっていたり、前置詞が無くなっていたりしますが、動詞やその動詞の派生語が文でも語でも同じ要素を必要としています。その必要な要素が前後どちらに現れるかということは文と語の組み立て方の異なる点ですが、(1)で、sniffingがbomb(s)と先に結びついてからdogと結びつくという順番は、文でも語でも同じです。(2)でも、relatedがdrug(s)と先に結びついてからcrimesと結びつくという順番は、やはり同じです。文と語である程度同じ組み立てが行われていることが分かります。
それでは、母語話者は、文でも語でも、動詞中心の組み立てで、ある要素が先に結びつき、他の要素が後になるとなぜ分かるのでしょうか。複数形については、arms merchant(武器商人)のarmsのように複数形の意味が特に求められる場合を除いて、複合語内に複数形が現れることはありません。前置詞は、概略的に述べると、予測できるものは省かれるということになりますが、これもきちんと述べるにはもう少し研究が必要です。要素の前後関係は文と語でなぜ異なるのでしょうか。疑問が次から次へと湧いてきています。
2007年12月21日 掲載