意味と形のつながり

岩田彩志(大阪市立大学准教授)

 私は英語における意味と表現形式の関係を主に研究しています。こう書くと難しそうに思われるかもしれないので具体例を少し出してみます。まず一つ目。同じ単語であっても色々な意味があるのは、英語を勉強すれば誰でも気付くことです。しかし時にはまるで理屈に合っていないように思えることさえあります。例えばThe light went outという文では「明かりが消えた」つまり「見えなくなる」ことを表わしています。ところが同じoutを使ったThe star came outという文では「星が見えた」という意味になります。なぜ同じ単語なのに正反対の意味になるのでしょうか?

 この問題は実は簡単です。要するに今まで見えなかったところから「外へ」出たら見えるようになるけれど、今まで見えるところから「外へ」出たら見えなくなってしまう、ということです。

 では二つ目に行きます。英語でHe sprayed paint on the wall.という言い方が出来ます。「ペンキを壁に塗った」という意味です。ところがほぼそっくり同じ単語ばかりを使ってHe sprayed the wall with paintとも言えます。今度は動詞の目的語になっているのはペンキでなく壁になっています。この両方の言い方が常に出来る訳ではありません。Pour(注ぐ)のような動詞はpour water into the glassのように1番目の言い方は出来ますが、2番目の言い方(*He poured the glass with water)は出来ません。かと思うとcover(覆う)という動詞では2番目の言い方(He covered the table with a cloth)が出来て1番目の言い方(*He covered a cloth over the table)が出来ません。何故こうなっているのでしょうか?

 今度は一言で言えるほど簡単でないので答えは省略しますが、参考までに実は日本語でもかなり同じことが当てはまります。まずsprayの場合と同じく「塗る」では両方がOKです(ペンキを壁に塗る/壁をペンキで塗る)。次にpourと同じく「注ぐ」では1番目の言い方のみが可能です(水をコップに注いだ/*コップを水で注いだ)。そしてcoverと同じく「覆う」では2番目の言い方のみが出来ます(*布をテーブルに覆う/テーブルを布で覆う)。こんなこと思ったこともないでしょう?

 このように、言葉というのは使っている人でも気付かないような複雑な仕組みをしています。丁度空から降って来た雪を顕微鏡で見ると綺麗な結晶をなしているように。その綺麗な仕組みの一端を垣間見ることが出来たときにこの道に入って良かったなと思えます。

2008年2月1日 掲載