樋口昌幸(広島大学教授)
試験問題に冠詞が出題されることはほとんどないので、受験目的で英語を勉強しているときには冠詞がむずかしいと思うことはないかもしれません。しかし,英語を使う仕事につけば、冠詞はむずかしい、と日本人ならすぐに実感するはずです。以下、a/an が必要か不要かに関する、比較的わかりやすい区別を紹介しましょう。(冠詞に関しては、本フォーラムの岩本遠億先生とバトラー後藤裕子先生のエッセイも読むことを勧めます。)
1.ひとまとまり/分解(まるごとの野菜・果物/調理した食材)
(1)a.Bill pulled an onion from the ground by its stalk.
(ビルは茎をもってタマネギを地面から引きぬいた)
b.Add minced onion to pot with lamb.
(みじん切りにしたタマネギを加えて、ラムといっしょに煮なさい)
[lamb に冠詞がないのは下の2の区別によります]
2.ひとまとまり/分解(動物/肉)
(2)a.A chicken crossed the road. (ニワトリが道路を横切った)
b.We had fried chicken for supper. (夕食に鶏の唐揚げを食べた)
3.作品/ジャンル
(3)a.Much Ado About Nothing is a comedy written by Shakespeare
in the late 1500s.
(『空騒ぎ』は1500年代後半にシェイクスピアによって書かれた喜劇だ) [具体的作品]
b.I prefer comedy to tragedy.
(悲劇より喜劇のほうが好きだ) [悲劇および喜劇というジャンル]
4.数値による限定/非限定
(4)a.The outlet was dug to a width of 500 feet.
(排水路が500フィートの幅にまで掘られた)
b.Horizontal lines imply width; vertical lines imply height.
(横線は幅を示し、縦線は高さを示す)
5.犯罪行為/犯罪名
(5)a.On October 14, 1997, Mr. Peters committed a burglary.
(1997年10月14日ピーターズは強盗事件を起こした)
b.He had been imprisoned for burglary twice before.
(彼は以前に2度強盗罪で投獄されていた)
上の例が示すように、冠詞を付けるか付けないかにはちゃんとした理由があります。冠詞の使い方は英語のネイティブ・スピーカーも気付いていない認識法あるいは世界観、少し専門的に言えば、宇宙の切り取り方、を反映しているのです。
2009年1月16日 掲載